JOPS社長ブログ
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第9話 理系出身者のための経理・経済知識アラカルト
このシリーズ過去の記事
第2回 バランスシートの子分「T字勘定」
私が30才になる前の1980年代半ばには、財務諸表は基本的に貸借対照表(略称BS・・・バランスシート)と損益計算書(略称PL・・・プロフィット&ロス)の2種類だったと記憶しています。その少し前の1982-84年に私はアメリカのビジネススクールに留学し、簿記会計の基礎を学ぶ機会に接しました。そこでは、キャッシュ・フロー計算書(略称CF)が新たな財務諸表のひとつとして紹介され、CFはBSとPLから導かれるものではあるが、より財務分析に有効であるとの主旨で説明されていました。ただ、CFが導入されてもBSとPLが最重要であることは間違いないと思います。
これまで、何度か話題に出した収益、費用、利益はPLに関する用語・概念であり、前回説明した「減価償却費」のように各論として難解なものはあっても、総論としては理解しやすいものです。一方、BSでの用語・概念は簿記会計を学ぶ際の最初のハードルだと私は思います。
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バランスシート(BS)の3大要素
BSの基本は「資産」「負債」「資本(純資産)」です。これらはどれも手強いです。「資産」には「現金」「預金」といった流動資産、「土地」「建物」「機械装置」「備品」といった固定資産などさまざまな項目があります。私は以前電力業界で働いていたため、業界特有の固定資産から始まる項目を並べること(固定性配列)が多かったです。しかし、一般的な業界では「現金」「預金」など流動資産から項目を並べること(流動性配列)が多いです。これら「資産」の各項目にはあまり共通点がないように思えてしまうのです。数年前に、ある会計関係の本を読んでいて、「資産」とは詰まるところ、キャッシュに換えることのできるもの、との解説を見て、やっと腑に落ちた感覚が得られました。「土地」、「建物」は売ろうと思えば売れてキャッシュに換えられます。また、「機械装置」などは、商品を作って「売上」すなわちキャッシュ獲得につながりますし、商品製造に寄与しなくなった場合でも、「不要品買取ります」のお店で売ればキャッシュが得られる、という理屈づけです。

T字勘定
さて、BSの理解を深めるのは、その子分のような「T字勘定」の理解が大切です。「T字勘定」では左が「借方(かりかた)」、右が「貸方(かしかた)」と呼ばれています。若いころに会社で「経理の基礎知識」というセミナーに私が参加した時の先生(当時の経理部副部長)は、ひらがなで大きく黒板に「り」の字と「し」の字を書き、「り」は左にはねる、「し」は右にはねる、これで借方は左側、貸方は右側だと覚えればよい、という非常に印象的な覚えかたを披露してくださいました。ちなみに、私がアメリカのビジネススクールでバランスシートを学んだ際には、Debit(借方)、Credit(貸方)と習いました。教授はこれを解説する際に、それぞれの語源について解説されましたが、私はなかなか聞き取れず、教科書にもあまり語源めいた解説がなかったので、私は左がD、右がC、従って「DC(直流)」だと覚えていました。発電所からビジネススクールへ留学した私らしい覚え方だと自負しています。ただ、発電所は交流の電気を発電しているからACではないか?との矛盾をはらんでいることも事実です。(笑)
この、「T字勘定」は「複式」簿記の基本中の基本なので、身につけるには訓練するしかありません。理系の私は、簿記会計の参考書に記載される練習問題に「設例1」と記載されているのを見て、これまで教科書や問題集などで「設例」という表現を見たことがなく、世界の違いを感じたものでした。「世界」と言えば、ソ連が崩壊してペレストロイカの時代になった際には旧ソ連が日本(自由主義諸国)で会計を学んでいるというニュースもあり、国家の政治体制の違いが経済の考え方の違いを如実に表している、と私は妙な感動を覚えもしました。
(第3回に続きます)