【社長ブログ】せっかく契約を締結できたのに…
JOPS社長ブログ
cooperated by several associates
第9話 理系出身者のための経理・経済知識アラカルト
第3回 せっかく契約を締結できたのに…
前回、「T字勘定」の話をしました。「簿記」には「複式簿記」と「単式簿記」の2種類がありますが、主流とされるのは「複式簿記」であり、前回お話しした「T字勘定」(あるいはその考え方を適用した方法。必ずしも図を使わずに、取引内容を2つ要素のペアで記帳する手法もあります。)が使われます。
このT字勘定の方法で取引を記帳するためには、勘定科目の名称や取引のどのタイミングで記帳するのかを正しく理解する必要があり、なかなか慣れるまでは大変です。
初学者によく出される問いとして、「営業担当であるあなたは2か月にわたるお客様通いを経て、ついに100万円の製品を売る契約を結びました。この時、複式簿記でどのように記録するでしょうか?」というような問題があります。増えるのは現金100万円? 売上100万円? 減少するのは在庫? 用語を学んだあなたはいろいろと迷うかも知れません。しかし、正解は「何も記入しない」なのです。「えっ? 2か月の努力が何も記入されないの?」と思うのが一般的な反応でしょうが、簿記では、購入契約ではなく実際の商品の動きがなければ記帳しません。お客さまに商品を届け、お客様が確かに受け取ったという確認があって、あなたがお客様の確認を売り手として確認して、初めて帳簿に記入されるわけです。この時にどういう記帳が行われるか、詳しく知りたい人は調べてみて下さい。なお、正解はPLの「売上」に貸方記入、BSの「売掛金」に借方記入です。
さて、私が発電所の保守現場で工事担当をしていた時の話に飛びますが、「工事」は「修繕工事」と「改良工事」の2種類に大きく区分されていました。この時には、工事費を所定の書式に書き込んで経理担当に回すわけなのですが、「改良工事」の書式がかなり難解で、これを書けるようになるかどうかが、担当者の能力指標のひとつでした。「改良工事」には「除却」や「除却工事費」などの記入欄もあり、工事管理そのものと全く関連がなさそうなのに、という思いがありましたが、経理の基本を学ぶうちに、大規模な工事では、支出したお金をすべてその時の費用として計上するのではなく、期間にわたって配分することが適切であることを理解しました。
会計では、このように期間配分された費用が収益(売上)とできるだけ対応するような配慮が行われるようです。そのため、まだ機械装置として寿命があり、残存簿価が残っていても、その装置を生産に用いないことが決定されたら、その決定をもって残存簿価のすべてを費用として計上し、撤去に必要な支出も同じく費用計上するということも経験しました。さらには、生産に用いないことが決定されても装置を撤去しないで放置している場合には、撤去に必要な支出を見積もって予め費用として引当てることさえ、会計処理として要求されるように時代が変化してきました。これらの考え方の変化の背景には、投資家など利害関係者にできるだけ企業の情報を開示して、適正な判断ができるようにするということなのだろうと、私は理解しています。
今回の話題はここまでにしますが、後日機会があれば、次のような私の過去の疑問をご紹介しようと思います。
- 「内部留保」とは「企業の貯金のようなもの」と説明する先輩がいるが、しっくり理解できない。
- 税法は「二重課税の禁止」を原則としているが、原則から外れるものは?
- 連結財務諸表のBSのある資産項目で、(連結決算の数値)<(個別決算の数値)になっている?
- 「その他包括利益」とは一体何なのか。
(第9話 おわり)